2009年2月17日

人を恋うる歌

人を恋うる歌


与謝野鉄幹 作詞
作曲者不詳


妻をめとらば才たけて みめ美わしく情ある
友を選ばば書を読みて 六分の侠気四分の熱


恋の命をたずぬれば 名を惜しむかな男ゆえ
友の情けをたずぬれば 義のあるところ火をも踏む


汲めや美酒うたひめに 乙女の知らぬ意気地あり
簿記の筆とる若者に まことの男君を見る


ああわれコレッジの奇才なく バイロンハイネの熱なきも
石を抱きて野にうたう 芭蕉のさびをよろこばず


人やわらわん業平が 小野の山ざと雪をわけ
夢かと泣きて歯がみせし むかしを慕うむら心


見よ西北にバルカンの それにも似たる国のさま
あやうからずや雲裂けて 天火一度降らんとき


妻子を忘れ家を捨て 義のため恥を忍ぶとや
遠くのがれて腕を摩す ガリバルディや今いかに


玉をかざれる大官は みな北道の訛音あり
慷慨よく飲む三南の 健児は散じて影もなし


四度玄海の波を越え 韓の都に来てみれば
秋の日かなし王城や 昔に変る雲の色


ああわれ如何にふところの 剣は鳴りをひそむとも
咽ぶ涙を手に受けて かなしき歌の無からめや


わが歌声の高ければ 酒に狂うと人のいう
われに過ぎたるのぞみをば 君ならではた誰か知る


あやまらずやは真ごころを 君が詩いたくあらわなる
無念なるかな燃ゆる血の 価少なき末の世や


おのずからなる天地を 恋うるなさけは洩らすとも
人をののしり世をいかる はげしき歌をひめよかし


口をひらけば嫉みあり 筆を握れば譏りあり
友を諫めに泣かせても 猶ゆくべきや絞首台


おなじ憂いの世に住めば 千里のそらも一つ家
己が袂というなかれ やがて二人の涙ぞや


はるばる寄せしますらおの うれしき文を袖にして
きょう北漢の山のうえ 駒立て見る日出づる方